【クリニック経営の落とし穴事例】税理士の勧めで、医療法人化して失敗した医院
「税金の軽減」といったさまざまなメリットがある医療法人化。しかし、顧問税理士から勧められて、医療法人化したものの、前よりも資金繰りが悪化してしまったというケースも見受けられます。
今回ご紹介するのは、そういった医療法人化の失敗事例です。
財務状況の概要
(法人設立前)
・医業収入 約9,000万
・法人化直前の院長の所得 約3,000万
・専従者給与 650万
・借入金残高 約9,000万
毎年の返済額 開業4年目まで約1,100万 5年目~12年目まで600万
・年間のリース料 約560万(あと2年間の支払いが残っている)
(法人設立後)
理事長報酬 月 200万
理事報酬 月 90万
法人所得 年間 140万
資金繰りが悪化した理由
顧問税理士の勧めにより、開業4年後、医療法人化した「Bクリニック(整形外科)」。しかしながら、「以前より、資金繰りが良くない」と、1年前に院長先生が私のところに相談に来られました。
それもそのはずです。Bクリニックは、年間 約1,100万円の借入金と、年間約560万円のリース料を支払わなければいけない状況でした。これらに加えて、生活費は、年間1,200万円(月々 最低100万円)が必要です。この状態で法人化すると、個人で年間 約2,300万円の可処分所得を要します。
これでは、役員報酬(理事長報酬・理事報酬)を高めに設定せざるをえなくなり、法人にあまり資金を残すことができません。役員報酬に課せられる税率は、50%となり、可処分所得の大半は、借入金の返済に充てることになっていました。
医療法人化のメリットである「所得分散」の恩恵も受けられなくなってしまいます。さらに、法人契約の生命保険(年間 約350万円)の支払いも財務を圧迫していました。
やみくもに医療法人化を勧める税理士に注意
私の見立てですと、Bクリニックが医療法人化するには、時期尚早でした。リース料の支払いがなくなる開業6年後以降に、医療法人化すべきだったと思います。
税理士には、クリニックの財務や資金繰り、院長の所得状況を見た上で医療法人化を勧める者もいれば、そのようなことは考慮せずに「なるべく早く法人化しましょう」と急がせてくる者もいます。
Bクリニックを担当していた税理士は、後者のタイプだったのでしょう。
医院が医療法人化すると、税理士としては、法人設立の手数料、顧問料(確定申告の内容が変わるため、申告料が上がります)、生命保険の手数料が取れるようになるという背景があるのです。
医療法人化に失敗しないための3つのポイント
では、医療法人化で失敗しないためには、具体的にどのようなことに気を付ければいいのでしょうか? 以下にまとめてみました。
(1) メリット・デメリットを知り、医療法人化の目的について考える
まずは、院長自身が医療法人化のメリット・デメリットについては、最低限勉強する必要があります。そうすれば自院が医療法人化した後のことを想像できるようになります。
また、医療法人化の目的を考えることも重要です。
「節税目的」という方が多いとは思いますが、そうであるならば「節税をして、最終的にクリニックをどうしたいのか」例えば、後継者に継承させるのか?第三者に譲渡するのか?法人を解散するのか?最終ゴールを考えるようにしましょう。
(2) 複数の税理士・ファイナンシャルプランナーに相談する
Bクリニックは、顧問税理士に言われるがまま何の疑いもなく、医療法人化してしまいました。
たとえ、いつもお世話になっている税理士を信頼していたとしても、言うことを全て鵜呑みにするべきではありません。
医療法人化を検討しているのであれば、医療法人に精通している税理士やファイナンシャルプランナーにセカンドオピニオンとして意見を聞くようにしてください。
(3) 財務状況に応じて「役員報酬額」を見直す
医療法人化する際のキモになるポイントが「役員報酬額」の設定です。決算後、毎年報酬額の再設定をすることができるので、所得や借入金といった財務状況に応じて、見直しを図りましょう。
まとめ
最終的に、Bクリニックは、法人契約の生命保険を一部解約したり、金融機関と交渉し、借入金の利率を下げたりと、経費削減することによって、資金繰りを改善することができました。
しかし医療法人化する前に、メリット・デメリットを知り、セカンドオピニオンとして専門家に相談していれば、このような事態に陥らなかったのも事実です。
読者の皆様も、医療法人化する際には、慎重に検討していただきたいと思います。
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