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クリニック経営の落とし穴事例「税理士の助言で、MS法人を設立したもののコストや税金がかさんでしまった事例」

クリニック経営の落とし穴事例「税理士の助言で、MS法人を設立したもののコストや税金がかさんでしまった事例」

税理士から、節税を図ることができるという触れ込みで「MS法人」設立の話を持ちかけられたことのある読者の方もいるのではないでしょうか。

しかし、MS法人とはそもそもどんな法人なのでしょうか? メリットだけでなく、デメリットはないのでしょうか? 

今回の記事ではMS法人について解説し、また、MS法人を設立して税金やコストが増えてしまった事例をご紹介します。

 

MS法人とは何か? メリット・デメリットを解説

MS法人は、医療機関の診療と経営を分離させることで医業経営の効率化、合理化を図り、医師や歯科医師を診療に専念できることを可能にする法人です。

たとえば、受付、会計、医薬品材料の仕入れ、医療機器のリースなどの業務を行います。また親族を役員にし、給与を分配することにより、医業収入を分散させ、節税を可能にします。加えて、MS法人は不動産を所有・管理できるので、賃料といった利益の一部を分散させることによって、相続税の節税対策をすることもできるのです。

ただし、これはあくまでも昔の話。今は、毎年の節税という点で、節税対策にならないケースが増えてきています。

 

その原因の1つとして挙げられるのが、1989年4月以降に導入された「消費税」

現在では、売り上げが1,000万円以上の企業には、8%の消費税が課税されています。クリニックの場合は、保険診療収入には消費税が課税されず、自由診療収入のみ(年間収入1,000万円以上)課税の対象となりますが、その一方でMS法人の売上は、消費税の課税対象となってしまうのです。

たとえば、年間の保険診療収入が5,000万円、自由診療収入が500万円のクリニックがあるとします。自由診療収入は、500万円なので、消費税は非課税です。しかし、MS法人を設立し、毎月100万円の業務委託手数料を支払った場合、MS法人の売り上げは、年間1,200万円。消費税が課税されてしまうわけです。

 

税理士に勧められて、MS法人を設立したもののコスト増に

実際にMS法人を設立して、税金やコストが増えてしまった事例をご紹介しましょう。D内科クリニック(仮)は、税理士に勧められて、医療法人とMS法人を同時に設立しました。しかし、MS法人の財務状況は芳しくなく、設立4年目で、院長が私のところに相談に来ました。

そこで調べてみると、Dクリニックは、奥様が医療法人の理事、MS法人の代表を兼任し、奥様の両親が役員になっていたのですが、MS法人からは給与を受け取っていませんでした。さらに、お子さんがまだ小学生であるため、役員にすることができず、親族間での医業収入の分散できておらず、MS法人のメリットが享受できない状態だったのです。

また、もし仮にMS法人を作らなかった場合の税額をシミュレーションしてみたところ、まず年間で180万円もの税金がカットできたことが判明。さらに、財務諸表を拝見したところ、事務所として借りているテナントの賃貸料(年間120万)や生命保険料(年間400万)など、MS法人を設立しなかった場合と比較して余計なコストを支払っていることが分かりました。

 

MS法人のメリットを生かすには?

では、MS法人のメリットを生かすには、本来であればどうすればよいのでしょうか? 以下のことが大切です。

MS法人を設立した場合の収支をシミュレーションする

消費税がかかってもメリットが発生するかどうかを、きちんとシミュレーションしましょう。

家族を役員にし、給与を支払い、収入を分散させる

医療法人の場合、医療従事者以外に給与を支払うことは難しいですが、MS法人の場合は、特に対象は問われません。

不動産の名義をMS法人にする

将来的に、相続税の節税につながります。

 

Dクリニックはその後どうなったのか

MS法人を立ち上げたものの、コスト増となってしまったDクリニックが、最終的にどうなったのかをお話しましょう。

当初はMS法人に在籍しているスタッフを医療法人に転籍させ、解散することも検討しましたが、院長が存続することを希望したため、以下のことをご提案しました。

1.スタッフを医療法人に転籍させる。(MS法人としての業務は、廃止)
2.事務所として賃借しているテナント契約は、解約する。
3.院長個人名義の不動産をMS法人に譲渡する。
4.院長所有の株式をお子様に計画的に時間をかけて贈与する。

将来的な相続対策を視野に入れて、不動産所有法人として運営していくことをお勧めしました。現在、まだ計画の途中ですが、年間の収支は、改善され、今後、相続対策のため法人で不動産を取得していく予定です。

 

まとめ

Dクリニックの場合、院長や奥さんにMS法人に関する知識がなかったがために、損をすることになってしまいました。

事業を行うにあたっては、税理士といった他人に「全ておまかせ」の姿勢ではいけません。税理士の中には、顧客の知識不足につけこみ、顧客を食い物にしているような悪質な税理士が存在することも忘れてはいけません。この記事を読んでいるドクターの方には、ぜひ経営や税務のことについて、自ら進んで勉強する姿勢をとっていただきたいと思います。

また、勉強をすれば、税理士が言っていることが、正しいかどうか、ある程度は判断できるようになります。今、接している税理士の言うことに疑問を感じた場合は、必ずセカンドオピニオンを取るようにしてください

 

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