
ドクターマーケットの保険営業方法「4回目の訪問で行うべき情報提供」
こんにちは。私は、開業医専門FPとして活動をしております「三橋 泉」と申します。このブログでは、開業医を顧客にしたい保険営業パーソン、FP、税理士の方のために、営業方法に関するノウハウをお教えしていきます。
これまでの記事では、クリニックの1~3回目の訪問で気を付けるべきことを説明してきました。今回の記事では、4回目の訪問で行うべき情報提供について解説いたします。
医療法人設立のスケジュールはさまざま
ドクターに「医療法人化を検討していますか?」と質問し、回答が「はい」だった場合、「医療法人化を予定している時期」を聞きましょう。
実は、医療法人は設立の時期によって、節税することができるのです。私たちは、以下の内容を把握して、ドクターに情報提供しなければいけません。
まずは、医療法人設立のスケジュールを知りましょう。
【一都三県の医療法人設立のスケジュール】
都県名 | 認可 | 時期 |
---|---|---|
東京 | 年2回 | 2月(受付は9月上旬)/8月(受付は3月上旬) |
神奈川 | 年2回 | 10月中旬(受付は5月中旬)/翌年3月(受付は9月下旬) |
千葉 | 年3回 | 8月上旬(受付は4月~5月中旬)/12月下旬(受付は8月下旬)/翌年3月(受付は11月下旬) |
埼玉 | 年2回 | 9月上旬(受付は5月)/翌年3月(受付は10月下旬~11月上旬) |
医療法人は設立時期によって、節税が可能
上記のとおり、医療法人設立のタイミングは複数回あります。たとえば、東京であれば、「9月受付→翌年2月認可」と「3月受付→8月認可」、年2回の申請時期がありますが、どちらの時期に申請すべきなのでしょうか?
仮に、「3月受付→8月認可」とすると、法人開設は(余裕を持って見たとして)10月になります。1月~9月は個人診療となるので、この9ヶ月間は個人で確定申告をする必要があります。
社会保険診療報酬が5,000万円以下であれば、概算経費率(租税特別措置法第26条の特例により、実際の経費の金額によらず、一定の計算式により、経費の金額を算出する方法)によって所得計算をすることができます。
一か月の保険診療収入が約500万だと仮定すると、社会保険診療報酬が4,500万円(9か月)なので、概算経費率の計算式は「4,500円(保険診療収入)×57%+490万円」となり、経費率は約67%となります。
※概算経費率は、所得に応じて4段階に区分されています。
つまり、10月に医療法人を設立すれば、実際の経費率が67%以下だとしても、1月~9月の9ヶ月間は約67%を経費(個人で確定申告)として計上できるのです。
もし、9か月の保険診療収入が5,000万円を超えている場合は、翌年まで法人開設をずらしたほうが節税ができるのかを検討する必要があります。
結論としては、ドクターのクリニックの、現在の年間経費率と概算経費率を比較し、租税特別措置法を適用したほうが有利か否かを判断した上で、法人開設時期を決定することが重要です。
実際のところは、手続きをする税理士のスケジュールもあるので、設立のタイミングを急いだり、遅らせたりすることは難しいかもしれません。
しかし、「法人化するタイミングによっては、概算経費率を使うことができる」という情報は、ドクターに提供するべきだと思います。このことを知らないドクターは多いです。
医療法人化のメリットとデメリット
「医療法人化を検討していますか?」と質問し、回答が「いいえ」だった場合、ドクターの医療法人に対する理解度は低いはずです。そこで、医療法人化のメリットとデメリットを包み隠さず話す必要があります。
【代表的なメリット・デメリット】
医療法人化のメリット | 医療法人化のデメリット |
---|---|
1.毎年の節税額が増える。 2.役員の退職金が受け取れる。 3.事業継承が容易になる。 |
1.コストの増加 2.常勤職員、役員の厚生年金の強制加入 3.顧問税理士に対する顧問料のアップ ・諸官庁への各種届出費用 ・決算申告費用 |
さらに言うと、医療法人化を検討していないドクターは、「医療法人化した場合の、税額のシミュレーション」の経験がないことがほとんどです。シミュレーションした結果、節税メリットがある場合、必ず、法人化を検討するはずだからです。ですので、ドクターにシミュレーションの提案をしましょう。
医療法人に関するQ&A集
以下に、ドクターからよくある医療法人に関する質問と、その回答をまとめてみました。
儲かっているにも関わらず、法人化していないクリニックがある。その理由は? |
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1)法人化したら、毎月、定額の給与を理事長(院長)が法人から受け取ることになるので、クリニックのお金が個人で自由にならないから。 2)顧問税理士が医療法人に詳しくないため、医療法人に関する情報が得られていないため。 ※顧問税理士事務所によって得手不得手があり、医療法人の設立は、煩雑なため実務経験が豊富な専門家に任せる必要がある。 |
法人化しないほうが良いクリニックとは? |
1)経理・会計がどんぶり勘定なクリニック(クリニックに対する貸し付けや仮払金が存在する) 2) 開業時の負債残高が多額のクリニック(戸建て開業のケース、土地、建物が個人名義) ※法人化しても個人名義のままのケースは、個人の可処分所得から借入金を返済する必要があるため、役員報酬を高く設定しなければならず、法人に内部留保できなくなるケースがあり、所得分散効果が得られない。 |
役員に必要な人数は? |
理事3名以上。監事1名。 ※そのうち、監事は、第三者。行政によっては、理事の内、1人は第三者でなければならないところもある。 |
理事は、何歳からなれるか? |
行政によって15歳以上で可の場合もあるが、一般的には、20歳から。 |
法人化する場合、個人開業での実績が必要か? |
東京都の場合は、開業と同時に設立することが可能。 他県は、2年間の開業実績が求められる。 |
まとめ
今回は、ドクターに提供すべき情報と、Q&A集を紹介しました。しかし、この記事で書かれていることは、あくまで医療法人に関わる情報の一部分にすぎません。
私たちは医療法人について、ドクターからどんな質問を受けても答えられるように、深い知識を身に着ける必要があります。医者はプロしか相手にしたくないのです。せっかく4回目の訪問までこぎ着けても、ドクターの質問に答えられなければ、ここで関係が終わりかねません。医療法人に関する書籍を最低でも五冊くらい読んで、知識をつけましょう。
実際に医療法人化の手続きを体験・手伝うのも大切です。実務を経験することで、「こういう点が面倒だな」「ここはお客さんからしたらネックだな」と実感できます。
保険の営業パーソンや、FPで、ドクターに医療法人化の話をしている人は多いですが、実務経験がある人はほとんどいません。経験することで、他より一歩抜きんでることができるはずです。